報 告

 第9回大分緩和ケアの夕べ

日   時  : 平成19年4月18日(水)
場   所  : アステム本社4F 大会議室
参加人数 : 157名 
         医師 7名、看護師 110名、薬剤師 13名、その他 27名

 今回は、医療者にとって最も大切で、基本的なスキルである聴くこと、特に傾聴について、講義をしていただいた。演者の齊藤さんは、日本の傾聴の権威である村田教授のもとで、基礎的科学的な勉強してきた。対人援助職(医師、看護師、薬剤師、MSW、SW、支援員など)のケアの基本スキルに『傾聴』について、<何を><どのように>そして<なぜ>聴くのかという原理的な説明をやさしく詳細に講義して頂き、さらに、具体的に『どのように』聴くことが『傾聴』であるのかについて、その理論と方法論について説明して頂いた。そしてその後ワークシートを用いた演習を通して、更に理解を深めた。
 実践に即した講義であり、講義後活発な質疑応答があり、講義後には参加者から、とても良い講義であったとの意見が多数寄せられた。また、斉藤さんを中心に、本年9月をめどに九州で初めて、大分での傾聴塾を開講予定である(文責:山岡憲夫)。


 【 講演内容 】


援助的コミュニケーション
〜傾聴の援助的意味とその方法について〜
演者: 齊藤 友子氏(心理療法士)

                

 【 講演要旨 】


T)第1部 他者への理解について
1)援助場面で困るのはどうして?
 対人援助論について…援助の考え方
 人間の「苦しみ」「痛み」について
 援助場面での<私>の<他者>への理解について

2)援助場面で困ること…?!
 例えば朝検温をしている最中に…
 患者 「なあ、俺はいつまで生きられるんやろうか…?」
 看護師A 「えっ!…○○さん、そんなこと言わないでくださいよ〜」
 看護師B 「・・・」(沈黙したまま固まる)
 看護師C 「元気じゃあないですか。体温今日もいつも通りですよ」

3)私たちはどうして「困る」のか?
 患者さんが話をすると業務ができなくなるから。
 ・患者さんの気持ちが伝わりすぎて、どうして応えていいか分からなくなるから。
 ・患者さんの病状を知っているだけに、辛い。など

4)対人援助について
 援助とは何か?という問い=援助には二つある
 ・治療(CURE)・・・ 痛みや苦しみを科学技術を使って取り除く、和らげる、軽減する
 ・ケア(CARE)・・・ 関係性の力を使って痛みや苦しみを和らげる、軽減する

5)人間の苦しみ、悩み、痛み
 身体的苦しみ
 心理的苦しみ
 社会的苦しみ 日常の世界(自明性の世界)
 スピリチュアルな苦しみ・・・「なぜ私が?」:非日常

6)スピリチュアルペインについて
 ・「もう消えてなくなりたい」
 ・「何をやっても意味がない」
 ・「一人ぽっち残された気がして寂しい」
 ・「孤独だ…」  など
→日常では考えなかったことを次から次と思いはじめたり、何か自分の世界を他者の世界との間に膜や壁を感じてしまう次元のこと。(自明性が崩れる)

7)援助とは何か?
 援助とは、その人の<苦しみ>や<悩み>を小さくするあるいは軽減することである
 (出典)村田久行著 「ケアの思想と対人援助」(川島出版)より

8)援助場面とは?
 自分のものの見方、考え方が問われる場面である。
 「人間尊重」「相手を尊敬する」とは何か?
 「どうすれば、相手を尊重することが実現できるのか?」   など

9)相互了解について
 Aさんの思う「やさしい」とBさんの思う「やさしい」は一致しない。

10)関係としての<私>そして<他者>
 @ 他者である患者さんと私は違う人
 A その上で他者である患者さんを信頼する。(相手の話がいくら長くて、分からなくても、相手が話をまとめていくことを信頼する)
 B 待つことができる、沈黙する場所に自分もいることができる。


U)第2部 援助的コミュニケーション
 「聴く」とは何か?
 ・ 「聴く」ことの援助的意味と方法
 ・ 「援助的コミュニケーション」とは?
 ・ 演習                      など

1)「聴く」ことの意味
 「聴く」と「聞く」の違いについて
 * 「傾聴」とは?
 傾聴とは援助の一つの方法である。

2)なぜ、「聴く」ことが援助なのか?
 ことばの中には人それぞれの<意味>がある。
例えば…
 ・昏睡状態の人の「アー」という訴えの中にもその人のメッセージがある。
 ・統合失調症の支離滅裂のようなことばの中にもその人のメッセージ(訴え)がある。
 ことばの中にあるその人の<意味>を<聴く>ことによって援助が成立する。

3)「聴く」ことによって、実現すること
 「聴く」ことは、他者を介した自己による自己言及(自己理解)である。
 @<私>から離れることができる。
 A<他者>が自分のことばをみつめ、味わうことができることによって、自分で整理する。

4)「私」から離れられないでいること
 (裂け目)Bさんのことばに対して、Aさんは自分の気持ちを言っている。

5)「傾聴」によって実現されるもの「私」から離れる
 (裂け目)
 Bさんのことばに対して、AさんはBさんのことばを繰り返して言っている

6)「聴く」ことには何が必要か?
 <私>と<あなた>は違う存在…
 違う存在として他者を信頼することによって、他者が自分で自分の物語や訴えを完成させる。
 他者の前で<援助する人>として現れることが必要となってくる。

7)援助的コミュニケーション
 援助者が援助を求める人の前に援助者として現れる(存在する)ためのスキル(技術)を
 援助的コミュニケーションと言う。

8)援助的コミュニケーションスキル
 (援助者)
 1.サインをメッセージとして受け止める
 2.メッセージを言語化する
 3.言語化したメッセージを返す
  【反復の技術】
 4.相手の想いを明確化する
  【問いかけ】

9)援助的コミュニケーション:傾聴について
 『傾聴』の具体的なポイントについて
 @ 反復→ (相手のコアメッセージを)繰り返す
 「〜なんですね」
 ※単なるエコーではなく、そこに意味があることに意識的になる。
 A (気持ちを)聴く→相手の経験・行為よりも感情の次元に焦点をあてる。
 B 苦しみの構造*)を言語化する→客観的状況と主観的な想い・願い・価値観とのズレを言葉で返す。

10)「苦しみ」の構造
 その人の客観的状況:苦しみの構造:主観的な想い・願い・価値観とのずれ

11)〜援助的コミュニケーション〜
 援助的コミュニケーションの原理
 @サインをメッセージとして受け取る
 Aメッセージを言語化する
 B言語化したメッセージを返す
  【反復の技術】
 C相手の想いを明確化する
  【問いかけ】

12)ちょっと練習してみましょう
 ワークシートの会話に対して、<傾聴>のスキルを使って、反復してみましょう

13)「傾聴」を身につけるためには…
 「傾聴」には訓練が必要である。
 自分のことばや態度に意識的になる。
 自分のものの見方、考え方が見えてくる。

14)お知らせ
 傾聴塾について
 今年9月から開講予定
 事務局:齊藤 FAX 0977‐25‐0075 
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SP-CSS研修会 西日本で年1回開講予定
(スピリチュアルカンファレンスサマリーシート)
NPO法人 対人援助・スピリチュアルケア研究会
事務局:FAX 044−455-2206
E-mail:npospiritualcare@ybb.ne.jp
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15)おわりに
 援助者がスピリチュアルペインを抱くことも(仕事の意味の喪失など)多くあります。一人一人の人たちが「聴く」ことを意識することによって、実は援助者自身も自分の力で自分を助けることにもつながっていくのです。 明日からの皆さんの実践がより豊かに、より深く意味のあるものとなるように願っています。


□ 反復の練習 □
以下の設問に対して、会場の参加者より、その答えをしてもらい、講師より反復の重要性を指摘した。

Ex.T 総合病院外科病棟 Aさん60歳女性のことば

A1:不安だらけなの。
A2:これからの治療の方針が見えないのが本当に嫌なの。

A3:いろんな科の先生が集まって話し合いをして決めるから待ってくれって言ったままなのよ。何か悪いものがあるから、静かにしなさいって、そんなこと納得できる?

A4:わたし、もう手がつけられないくらいの状態なんじゃないかって思うの。


A5:あたしね、手術するか、化学療法か、放射線か選べって言われたら、全部断ろうと思うの。痛みをとってもらって、あと少しの命なら精一杯好きなことして、元気でさよならしたい。

A6:残されたこれからの時間の使い方を主人と話したいと思うのに、何かちょっと言いかけると「そんな話はするな!」って怒るだけなのよ。

A7:主人がね、やさしいのはいいんだけど、結局、気が弱いだけなのよ。目を泣きはらして、やっと来たという感じだから、相談なんかできやしない。

 

  =質疑応答=

1)
質 疑:司会者から:傾聴を行う中で、自分の考えを言って良いのか?
応 答:患者さんから“あなたはどう思うの”と聞かれた時は、自分の言葉で考えを言って良い。ただし、その後で、必ずもう一度、相手に話の主体を戻すことが必要です。

2)
質 疑:訪問看護師から:ターミナルの患者さんを家で見ることがありますが、本人の思いと、家族の思いに差がある時はどうすれば良いのか。家族が“この人、何も言ってくれないんです”など言ってくる。その時の対応は?
応 答:患者さん自身の苦しみと、家族の苦しみを一緒にしてはいけない。患者さんは患者さんで、家族は家族でその苦しみを理解する。
*さらに質疑続く:私たち訪問看護師も忙しいので、じっくり傾聴する時間がないのですがどうすればよいですか?
応答:短い時間でも、少しでも傾聴していくことが大切です。

3)
質 疑:訪問看護師から:どうしたら聴いてもらったと思えるんですか
応 答:相手の言葉を返すようにすれば良いと思います(反復法です)

4)
質 疑:司会者から:傾聴をしていく間で、どこで傾聴を止めれば良いですか。そのタイミングは?
応 答:傾聴を止めるかどうかは、相手が決めることです。“もう、辞めよう”とか、“ここら辺で”とか、相手に決めらせることです。こちらに時間が無いときは、相手に知らせ、また、後で聴くことを約束する。

5)
質 疑:病院看護師から:明日からも傾聴を行う上で、まず、何を心がけて行けば良いのか。
応 答:まずは、患者さんの言葉を反復して下さい。患者さんの言葉が長すぎて良く分からなくなったら、患者さんの最後の言葉を繰り返すだけでも良いです。まず、これから始めましょう。
          (以上、文責:山岡憲夫)